この記事は、こはる眼科 院長・池本淳子が、診察室では伝えきれない話を綴っています。
先日、20代後半の方が、少し困った顔で来院されました。
「日中ずっとパソコンを見ていると、夕方には手元がぼやけてくる。肩も凝るし、目の奥が重い。でも、まだ老眼の歳じゃないですよね?」
こうしたご相談が、20代・30代の方から本当に増えています。デスクワークで一日中パソコン、移動中も食事中もスマートフォン。近くを見続ける時間が、ひと昔前とは比べものにならないほど長くなっているからです。
先にお伝えすると、多くの場合、それは老眼ではありません。そして、我慢するしかないものでもありません。
正体は、ピント合わせの筋肉の「働きすぎ」
近くを見るとき、私たちは毛様体筋(もうようたいきん/目の中でピントを合わせる筋肉)を使って、水晶体(すいしょうたい/目の中のレンズ)の厚みを変えています〔1〕。近くを見続けるあいだ、この筋肉は縮んだまま、緊張しっぱなしです。
なぜ「夕方」なのか。朝はまだ筋肉に余力があります。でも、一日中パソコンとスマートフォンを見て、その緊張が続くと、夕方には疲れて、ピントを合わせたり緩めたりの切り替えが鈍くなる。だから「朝は平気なのに夕方つらい」という、時間帯のはっきりした疲れ方になるのです。「スマホ老眼」と呼ばれることもありますが、年齢による老視(ろうし)とは別もので、目の筋肉の一時的な疲労に近い状態です。
「老眼じゃないなら、放っておけばいい?」と思われるかもしれません。たしかに、休めば戻ることも多いのです。ただ、毎日その負担がかかり続ける生活では、つらさが慢性化していきます。だから私は、「がんばり続けている目を、少し助けてあげる」という考え方をお勧めしています。
すぐに「使いすぎ」とは決めつけません
ここは、眼科医として正直にお伝えしたいところです。手元のつらさを「調節の疲れですね」と決める前に、診察室では、ほかの原因がないかを一つずつ除いていきます。
目の表面が乾くドライアイでも、夕方の見えにくさやかすみは起こります
左右の目の向きのわずかなズレ(斜位/しゃい)が、近くを見るときの負担になっていることがあります
そもそも、今のメガネやコンタクトレンズの度数が合っていないだけ、ということも少なくありません
これらを確かめ、ピントを合わせる力を実際に診たうえで、はじめて「調節の使いすぎが大きい」とたどり着きます。「見えにくい→とりあえず度数を上げる」ではなく、「見えにくい→なぜか→ほかの原因を除いて→調節と確かめて→だからこう助ける」。この確かめる一段が、レンズの話の手前にあります。
「完全に矯正しない」という考え方
そのうえで、少し意外に思われるかもしれないことをお伝えします。
私は、視力表で一番くっきり見える度数(完全矯正/かんぜんきょうせい)を、そのまま処方することはほとんどありません。その度数は、目のピント合わせの力をフルに使って初めてラクに見えるように作られていることが多いからです。ただでさえ疲れている毛様体筋に、さらに全力を求めることになりかねません。
視力の数字は少し控えめでも、一日を通してラクに過ごせる度数。それを、診察室で一緒に探していきます。
「近くだけ、少し助ける」という選択肢
近くを見る作業が多い方に、選択肢の一つとしてお話しするのが、低加入度数(ていかにゅうどすう)の累進レンズです。
「累進レンズ(遠近両用)=老眼鏡」というイメージから、「えっ、自分はまだそんな歳じゃ……」と驚かれる方がほとんどです。でも、低加入度数の累進は、老眼鏡というより、近くを見るときの毛様体筋の仕事を、少しだけ肩代わりする道具です。近く用にほんの少しだけ度数を足すことで、近くを見るときに筋肉ががんばる量を減らします。遠くの見え方はほとんど変わりません。
当院では、20代・30代の方にご提案することも珍しくありません。「もっと早く知りたかった」という声をいただくこともあります。
もちろん、合う・合わないには個人差があり、すべての方に必要なわけではありません。だからこそ、まず目の状態を診て、その方の生活と目に何が合うかを一緒に考えることを大切にしています。
夕方のつらさを、我慢し続けない
近くを見る作業による目の疲れは、まず「本当に調節の疲れか、ほかに原因はないか」を診ることから始まります。そのうえで、視力の最大化ではなく、目の負担の最小化を目指して度数を選び、生活に合わせて合わせ込む。この「診る」と「合わせる」が噛み合って初めて、レンズは「かけていることを忘れるくらい自然な」道具になります。
がんばり続けるより、一度、目の状態を診せてください。
よくあるご質問
Q. 20代でも累進レンズをかけていいのですか。
A. 歳ではなく、「今の目と生活に何が合うか」で考えます。近くの負担が大きい方には、低加入度数の累進が合うことがあります。
Q. スマホやパソコンを減らせば良くなりますか。
A. 近くを見る時間を意識して、ときどき遠くを見て目を休ませることは大切です。それでもつらさが続く場合は、レンズで毛様体筋の負担を軽くする方法もあります。
Q. 目薬ではだめですか。
A. 状態によっては点眼が役立つこともありますが、原因や程度によって異なります。まず診察で「何が起きているか」を確かめるのが先だと考えています。
Q. 一度かけたら、手放せなくなりませんか。
A. レンズは目を「怠けさせる」ものではなく、「がんばりすぎを助ける」ものと考えています。不安な点は遠慮なくご相談ください。
まとめ
20〜30代の手元のつらさは、多くが老眼ではなく「調節(毛様体筋)の使いすぎ」
「朝は平気で夕方つらい」のは、筋肉の一日の疲れ方そのもの
決めつけずに、ドライアイ・斜位・度数ずれなど、ほかの原因をまず除く
選択肢の一つが低加入度数の累進。近くの負担を少しだけ肩代わりする道具
合う・合わないは個人差。まず診ることから